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むかしむかし、ある寺に、玄達上人がおりました。
玄達上人は、それはそれは真面目な方で、その徳の高いこと近在に知れ渡っており、ウナギを山芋やというて食べるようなナアナアの事は一切しません。
ご自身も精進なさいますが、寺のお坊さんの修行もいたって厳しく、玄達上人のもとに修行に参る坊主は、よっぽどの決心か、或いは勘当者だと言われたほどです。
ところで、この春より、幼い小僧、良念が参りました。
なんせ仏のホの字も知らぬと、玄達は厳しい顔をしながらも、鍛えがいに、内心跳びあがって歓んでいました。
早速修行の日々が始まりました。
朝は日の昇る前から起き、水汲み、床磨き、朝御飯の準備、洗濯、お勉強、運動、と、息つく間もありません。
少しでも逃げようものなら、上達上人の顔色が変わります。
直接手を下す姿は誰も見たことがありませんでしたが、キレたら目に留まる全てのものを破壊するという噂は真に迫っていました。
最年少の良念は、先輩達に負けないように、一生懸命日課をこなしました。
ある日良念は、先輩の恵心に呼び出されました。
土間の裏で、恵心に渡された木箱では、活きの良いどじょうがうようよ泳いでいます。
恵心は
これを豆腐と一緒に煮るように
と言います。
豆腐の隣にどじょうがいたら、怒られるのでは
と怯える良念に、恵心は答えます。
どじょうは敏感だから、煮ていると、より冷たいところに行こうとする。
煮えきった頃には、豆腐の中に尻尾まで丸めて入ってしまうから、みえなくなるんだ。
上人さんの豆腐は、別の鍋で煮てくれ。
恵心はそう言うと、他の人に気付かれぬように、去って行きました。
お互い修行の身、あくまでも先輩の言いつけなので、断るわけにはいきません。
どうしたものかと困っていると、そこに玄達上人が現れました。
なんと、気配を消して一部始終をご覧になっていたとか。
ついに折檻か、と思い、身を竦める良念に向かい、玄達は胸から何か小さな塊を取り出しました。
玄達上人が言います。
ん、それはな、昨日、檀家が届けてくれたワサビや。
沢の流れのきついとこにはえとるのを苦労してとってきてくれたんや。
晦日の蕎麦振舞いのときの薬味にしようと思とったんやが、なに、かまうこたない。
そのまま皮をむいてな、豆腐一人当て一本ずつ突っ込んどきなはれ。
とりたてやさかい、口の中の皮がめくれるほど辛いぞ。
ひっひっひっひ。
ああっ、全部入れるんやない。わたしのと、お前のとは普通の豆腐にしとくれや。
そうそう、豆腐の端でも欠いといて目印にしとくとええな。
“どじょう地獄”で精つけようと思たんやろうが、こら“坊主地獄”になるな、ひっひっひっひ。
落語のストーリーを借りた、僕の創作です。
R.
参考資料;
上方新作落語の表現特性
どじょう基本編
どじょう地獄試食大会まとめ
吉四六さん、一休さんのとんち話